遺言と遺留分
遺言と遺留分
- 遺言
① 遺言の方式
遺言の内容は親族その他の様々な利害の対立を生じやすく、また、遺言を偽造することもしばしば起こりうるため、遺言は厳重な方式が定められており、これに従わないと遺言は無効となります。(民法960)
民法が定める遺言の方式には、一般的な普通方式と特別な事情がある場合の特別方式があり、普通方式の内容は次のとおりです。
(1) 自筆証書遺言(民法968)
(2) 公正証書遺言(民法969)
(3) 秘密証書遺言(民法970)
② 遺言能力
満15歳に達した者は、遺言をすることができます。(民法961)
③ 遺贈の種類
遺贈には、財産の何分の何という割合で示す包括遺贈と、特定の財産を示す特定遺贈があります。(民法964)
2. 遺留分
① 概要
一定の範囲内で遺言者の意思を尊重するため、遺言によって相続分を指定したり、相続人あるいは相続人以外の者に財産を遺贈することが認められています。しかし、このような方法をあまり強く押し進めてしまいますと、極端な場合、例えば愛人に全財産を与えるというような遺言があれば、一家の大黒柱を失ってしまった家族は、生活の糧ともいうべき財産をすべて他人に奪われ、生活の安定すら確保できないこととなってしまいます。
そこで、ある程度の制限を設け、一定の相続人の生活保障等のために設けられた制度として、遺留分の規定があります。(民法1028)
② 遺留分権者
兄弟姉妹を除く相続人、すなわち、配偶者、子、直系尊属となります。
③ 遺留分割合
相続人 |
遺留分割合 |
直系卑属のみ |
1/2 |
配偶者と直系卑属 |
|
配偶者と直系尊属 |
|
配偶者のみ |
|
直系尊属のみ |
1/3 |
※相続人が複数いる場合の各相続人の遺留分割合は、上記の遺留分割合に各相続人の法定相続分を乗じたものとなります。(民法1044)
<設例>愛人Sに全財産を遺贈するという遺言がある場合
愛人S
¦
被相続人甲 A
||―――――|
配偶者乙 B
配偶者乙、A及びBは、遺産の1/2を減殺請求することができます。
なお、具体的な割合は配偶者乙が1/2×1/2、A・Bが1/2×1/2×1/2となります。
④ 遺留分の減殺(民法1031)
遺贈や贈与は、原則として遺留分の規定に違反することはできませんが、遺留分を侵害した遺贈や贈与のすべてが無効というわけではありません。すなわち、遺留分を侵害した贈与や遺贈であっても、それ自体は法的に有効であり、遺留分を侵害された者が遺留分減殺請求権を行使した場合に限り、遺留分を侵害した部分のみが無効になるに過ぎません。
⑤ 減殺請求権の消滅時効(民法1042)
減殺請求権は、相続開始・遺贈・贈与があったことを知るのみではなく、それが遺留分を害し減殺できるものであることを知った時から1年を経過すると時効により消滅します。
⑥ 遺留分の生前放棄(民法1043)
相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り有効です。
なお、ある遺留分権利者が遺留分を放棄したからといって、他の共同相続人の遺留分が増加するわけではなく、被相続人の自由に処分できる財産(自由分)が増加することになります。
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