事業承継における役員退職金の活用
中小企業の事業承継をプランニングする時、役員退職金を活用していきます。事業承継の場合、現在の代表取締役が退任し役員退職金を支出することで以下のような効果が期待されます。
- 現在の代表者が元気なうちに後継者に経営を移譲することにより、社内外の信用を残したまま後継者の実績を積ませ、信用を継続させることができ、経営全般の知識知恵も引き継がせることができる。
- 就任期間の長い代表取締役になると、多額の役員退職金を支給することができ、過大ではない役員退職金であれば、損金になり節税効果がある。
- キャッシュに余裕がある企業であれば、役員退職金を支給することにより内部留保が減少し、その会社の株式・出資の時価が下がり、株式の移動が容易になり、相続対策にもなる。
- 退任する役員は現預金資産を増やし、万が一の相続があった場合も相続人の負担が軽減される。
以上のようなメリットを考えながら、事業承継を考え、役員退職金はどのくらい支給できるのか、ではその資金をどのように準備していくのでしょう。キャッシュが少ない会社は保険などの金融商品も使いながら、時間をかけて役員退職金の準備をすることもあります。中小企業オーナーの事業承継、相続対策は長期的な視野で行っていくことが大切です。
それでは、役員退職金がどのくらい支給できて、もらった役員個人にどのくらいの税金の負担が出るかを例を使って説明します。
Ⅰ 役員退職金の支給額の算定
通常税理士が使う役員退職金の算定は功績倍率方式で行います。この方式は次のような算式で計算します。
最終役員月額報酬×役員就任年数×功績倍率
次のような事例で計算してみましょう。
- 最終役員月額報酬 120万円
- 役員就任年数 30年
- 功績倍率 3.0
このような場合で、功績倍率方式で計算しますと、
120万円×30×3.0=1億800万円
となり、1億800万円を支給することになります。これを一時に支給するとその支給年度の損金になり、利益計上している法人ですと、約4000万円ほどの法人税等の節税になり、実際の法人負担は6000万円ということになります。
この場合、功績倍率をどのくらいにするのかが問題になります。通常3.0~4.5倍以下であれば過大ではないと言われていますが、その法人の資産内容、役員退職金規定の有無、その役員の業績など多角的な検討が必要ですので、顧問税理士によく相談することが良いでしょう。
Ⅱ 役員退職金の税負担
役員退職金をもらうと、所得税と住民税がかかります。退職金の場合は、退職所得の計算をしていくことになり、通常の毎月の報酬・給与とは違う計算になり、税負担の軽減がされています。
①退職所得 (退職金-退職所得控除)×1/2 で計算します。
②退職所得控除は、 勤続20年までは年40万円、20年超は年70万円となります。
上記の事例ですと、役員就任年数30年ですので、
40万円×20年+70万円×(30年-20年)=1500万円 となります。
③したがって、税率をかける前の所得計算は
(1億800万円-1500万円)×1/2=4650万円
④この4650万円に所得税と住民税の税率をかけて、納税額を計算します。(この例では、他の所得控除、税額控除がないものとして計算します)
所得税 46,500,000円×40%-2,796,000円=15,804,000円
住民税
- 市民税 46,500,000円×6%×90%=2,511,000円
- 県道民税 46,500,000円×4%×90%=1,674,000円
所得税・住民税の合計は、19,989,000円となります。
高額な税負担に見えますが、支給額からすると税率は約18.5%となりますので、現在の所得税だけで最高税率が40%ですから、その面では税負担は少ないと言えます。
今回は役員退職金の税のメリットとその活用、税負担について解説しました。
今後も中小企業の事業承継と個人の相続対策について書いていこうと考えています。ご質問ご意見があればお寄せ下さい。
税理士法人TACS 代表社員・税理士 木村聡 http://i-tacs.jp/
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